BtoB製造業のマーケティングはなぜ難しいのか?実践すべき施策を成功事例を交えて解説

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BtoBマーケティングに取り組む企業の数は年々増加している一方、マーケティング活動が浸透した業界と、そうでない業界との差も大きくなってきています。BtoBマーケティングを成功させるには、業界・業種ごとの特徴を理解しなければなりません。

今回の記事で取り上げるのは製造業です。一口に「BtoBの製造業・メーカー」と表現しても、かなり幅広い業種・企業が含まれますから、状況はもちろん各社で異なります。ただ、業界全体としていえば、BtoB製造業はマーケティング活動の浸透が遅れている傾向にあるんです。

しかし、BtoB製造業にマーケティングが不要なわけではありません。むしろ、遅れているからこそ、マーケティング活動の導入・実践が競合他社との差別化になります。
BtoB製造業におけるマーケティングの現状について解説し、課題から取り組みたい手法、成功に導くためのポイント、実際の成功事例までをご紹介します。

なお、BtoBマーケティングについてもっと知りたい方は以下の記事もご覧ください。

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BtoB製造業のマーケティングはなぜ難しいのか?実践すべき施策を成功事例を交えて解説

BtoB製造業のマーケティングはなぜ遅れているのか?

日本における製造業はGDP・就労人口ともに約2割を占めます。サービス業に次ぐ2位の立ち位置であり、重要な基幹産業です。
BtoB製造業は「日本を代表する産業の一つ」であるにも関わらず、他の業界・産業と比較して、マーケティング活動において遅れを取っているのはなぜでしょうか?

BtoB製造業では従来、「売れる仕組みづくり」目的でのマーケティング活動は、ほとんど意識されてきませんでした。
担当者レベルで個人的に売り方を工夫したり、市場を分析したりすることはあっても、マーケティング専門チームを設置し、組織的に取り組んでいる企業は少数派だったのです。
昨今の流れを受け、大手のメーカーはマーケティングの取り組みを本格化させ始めていますが、数百・数千人規模の従業員を抱える企業ですら、マーケティング部門のメンバーはたった十数人、というケースも珍しくありません。依然として、「BtoB製造業ではマーケティング活動が普及していない」のが実情です。

このような状況に対して、製造業界に身を置く人の間でも危機感が芽生えてきてはいるのですが、それでもなお「何から手をつけたらいいのかわからない」「誰にも相談できないし、1人ではやりようがない」と、具体的な行動に至るにはハードルが高いケースも多いようです。

製造業でBtoBマーケティングが簡単には浸透しないのには、もちろん理由があります。
背景にある事情をきちんと整理しなければ、解決策は導き出せません。まずはBtoB製造業の業界全体の特徴を知り、マーケティング活動をとりまく課題を理解するところから始めましょう。

BtoB製造業マーケティングの課題1:ターゲットはニッチな市場、利益を上げるには「既存顧客との関係づくり」が重視されてきた

BtoB製造業の商材は多岐に渡りますが、共通するのは、製品が単体で世の中に広く流通はせず、限られた市場のみで取引されること。

例えば、A社はエアコンの心臓部である圧縮機のパーツを専門に製造する企業だとしましょう。A社のパーツを購入するのは基本的にエアコンの圧縮機を製造する企業ですが、そのような企業が全国そこかしこに星の数ほど存在するとは、ちょっと考えにくいですよね。

このように、BtoB製造業では売り先がある程度、限定され、比較的ニッチな市場を対象にしています。「製品を購入してくれる企業が国内には数社しかない」「実質、専属である」というケースもよくあります。

売り先が限定されるBtoB製造業はニッチな市場が対象に

そのため、次々に新規顧客を開拓・獲得するのではなく、既存顧客にリピートしてもらい利益を上げるビジネスモデルがBtoB製造業では多い傾向にあります。

つまり、重要なのは顧客との関係性を維持・継続すること。そうすれば、新しい製品が必要になった際も顧客の方から「こんな商品はない?」と声がかかります。そのタイミングでニーズに応じた提案をすれば、新たな受注につながるというわけです。

したがって、BtoB製造業でモノを売るための活動は、取引実績のあるお客様のもとに足を運び、納入した製品のパフォーマンスや使い心地を確認し、良好な関係を維持するという「ルート営業」が中心になります。

広い意味では、こういった既存顧客へのセールス活動ももちろん、マーケティング施策の一つではあります。
しかし、「製品が売れるための仕組みづくり」とも表現されるように、マーケティング活動で利益を最大化していくには、どうしても新規顧客の獲得が主要な目的になってきます。
そのため、製造業ではそもそもマーケティングの必要性を感じにくい、という背景があるのです。

BtoB製造業マーケティングの課題2:専門性が高い・対象となる顧客が限られるため、Webで検索される回数が少ない

BtoBマーケティングの重要性・注目度が増している、という事実の背景にあるのは、インターネットの普及と「知りたいことはまず検索」という文化の浸透です。

商品を買う前に情報収集目的で検索するのは、何も、個人の消費者だけではありません。BtoBの購買行動においても「購入を検討している企業の担当者は、取引先の営業担当との商談に臨む時点ですでに、検討作業の大半を終えている」と言われています。
そのため、潜在的な顧客が情報収集することを念頭に置き、検索される前提で、自社の製品・サービスの情報をオンラインで発信することはBtoBマーケティングでも必須となりつつあります。

では「BtoB製造業」に限った場合はどうでしょうか。
BtoB製造業の商材は専門性が高く、対象となる市場は狭いうえ、顧客にとっての選択肢となる競合他社の製品も数が限られます。製品を購入したい企業の担当者にも、「まさかこんなに細かいピンポイントの情報が、インターネット上で広く公開されてはいないだろう」という意識が働きます。
つまり、いくら検索行動が一般的になったとはいえ、BtoBメーカーの顧客はそもそもインターネットでは情報収集をしにくいという背景があったのです。

検索か・問い合わせかーBtoB製造業のマーケティングはなぜ難しいのか?実践すべき施策を成功事例を交えて解説

例えば、エアコンの圧縮機を製造する企業が、現在使用しているパーツをもっと安価なものに変更したい時、「エアコン 圧縮機 部品 安い」というキーワードでインターネットで検索するでしょうか?それよりは、馴染みの営業マンに電話して「いつもの製品より、もう少し低価格帯のパーツを用意して欲しいんだけれど」と問い合わせる確率の方がずっと高いでしょう。

実際、BtoB製造業に関わるキーワードは、検索される回数(月間検索ボリューム)も非常に少ないケースが多いのです。

BtoB製造業マーケティングの課題3:培ったノウハウ・技術は、社外に漏らしてはならない重要な企業秘密

見込み顧客の創出「リードジェネレーション」と育成「リードナーチャリング」においては、顧客に興味や関心を持ってもらう・購入へのモチベーションを高めるためのコンテンツを用意することが取り組みの柱になってきます。

リードクオリフィケーション・ナーチャリング・ジェネレーションーBtoB製造業のマーケティングはなぜ難しいのか?実践すべき施策を成功事例を交えて解説
・自社の製品の強み
・他社製品との差別化ポイント
・自社製品はどんな課題をどう解決できるのか

上記のような内容をダウンロード資料(ホワイトペーパー)やメールマガジンに仕立てて発信していくのが定石ですが、製造業ではこういったコンテンツ作りにも難しさがあるんです。具体的には、技術流出の懸念です。

「自社のノウハウを社外に公開し広く共有することで、業界全体で新たなイノベーションを生み出していこう」という考え方は昨今、成功を収めているBtoBマーケターの間で主流になってきています。
多くの場合、ノウハウを公開しても企業の競争力は下がりません。むしろ、有益な情報を持っていることを示せるので、自社の強みのアピールにつながりますから、出し惜しみせず情報公開を積極的に進める企業が増えているんです。

しかし製造業では、「製品の強みは、自社にしかできない製造方法にあり、事業の根幹に関わる」場合も多く、社外に広く公開するわけにはいかないケースがあります。
例えば、製品の厚みを何ミリにするのか、組み上げる際にどの順番で行うのか、使用する薬品の配合の割合などはすべて、重要な企業秘密。社内で発明した新しい技術に対して特許を申請するのも製造業ではごく一般的です。

このことからもわかるように、製造業においては有益な情報ほどコンテンツとしての発信が難しく、自然と、マーケティング活動の幅も限定されてしまうのです。

BtoB製造業マーケティングの課題4:「代理店が販売する」独特の商習慣

BtoB製造業の販売活動は、自社で直接行うのではなく、代理店(専門の商社)に依頼しているケースがよくあります。
・顧客からの問い合わせに対して代理店がニーズに合致した製品を提案する
・購入してくれそうな企業を見つけて営業をかける
・変化するマーケットの需要を汲み取って提案する製品を変更する
・自社の製品がどんな顧客の課題をどう解決できるのか考える

上記のようなマーケティング活動を代理店が行っている、というBtoBメーカーは非常に多いのです。

もちろん、販売活動は完全に代理店任せ、というわけではなく、メーカーの営業担当も代理店と一緒になって顧客への対応を行います。
しかし「代理店にお願いしておけば売り先をある程度、見つけてきてくれる」という構造が既にあるわけですから、BtoB製造業の企業が自社で、市場や自社製品の分析、顧客ニーズの深掘りといったマーケティング活動を行う必要性は薄くなります。

また、代理店が介在することで、リード数やコンバージョン数といった数値を直接、把握することも難しくなりますし、顧客となる可能性のある企業のリストも社内に蓄積しにくくなります。

BtoB製造業のマーケティングはなぜ難しいのか?代理店が入った販売構造ー実践すべき施策を成功事例を交えて解説

さらに、複数の代理店への販売の委託も一般的ですから、全体像はますます複雑になります。そして、この複雑で独特な流通構造を業界外の人が理解することは簡単ではありません。
いざマーケティング活動に本腰を入れようと考えたBtoB製造業が、マーケティング支援サービスを提供する会社コンサル会社に依頼しようにも、これらの構造を的確に把握してサポートをしてくれる支援会社の数は決して多くはないのです。

BtoB製造業マーケティングの課題5:成功事例が少ないうえに、リソースも不足しがち

マーケティング活動をほとんど行ってこなかった日本のBtoB製造業は、業界全体としてノウハウが乏しく、成功事例の種類・数自体がまだ少ない傾向にあります。扱う商材によって個別性も高いため、成功事例をなかなか自社に当てはめにくいという事情もあります。

また、製造業に限らず、日本国内にはBtoBマーケティングに関する専門的な知識を持つ人が圧倒的に不足しています。豊富な経験を持つマーケティング専任の担当者の採用も難しいため、ほとんどのケースで他の業務に従事しているスタッフがマーケティングも兼務することになります。
しかしながら、問題が山積しているBtoB製造業のマーケティングを、専門知識に乏しいスタッフが他の業務の「片手間」に行ったところで、成果が出ないのは明白です。

BtoB製造業マーケティングの課題6:社内の理解・他部署との連携に難航しやすい

社内での理解不足も大きな壁として立ちはだかります。
業界的に、既存顧客との関係作りを重視し、属人的な販売方法で利益を上げてきた過去があります。中には、顧客は「信頼関係・人間関係で獲得した俺の客」であり、メルマガを送るために顧客リストを作成し社内で共有するなんてもってのほか、と考える営業担当者もいます。こういった文化も、組織だったマーケティング活動の展開を阻んでいるのです。

以上6つの課題が積み重なった結果、BtoB製造業ではマーケティング活動の普及・定着が難しいというわけです。BtoB製造業のマーケティングを推進するには、これらをどう解決するかを考えねばなりません。

BtoB製造業こそマーケティングに注力を!必要性とメリット

ここまでの事情を踏まえた上でも、BtoB製造業はマーケティングに積極的に取り組むべきだ、と言うのには理由があります。

BtoB企業の購買行動の変化とDX推進により、マーケティング活動もデジタル化・オンライン化が必須に

対面営業ができなくなったコロナ禍を経験し、BtoBのマーケティングはデジタル化・オンライン化へと大きく舵を切りました。ご紹介した通り、BtoCに比べれば、インターネットで検索した際にたくさんの情報がヒットするわけではありません。しかし、BtoBメーカーのクライアントとなる企業の担当者が、情報収集の目的で検索する機会は確実に増えています。

また、政府は製造業におけるデジタル化を強く推進しています。今後はこれまでのようなマンパワーに頼った営業活動ではなく、ITを活用した効率的なデジタルマーケティングが業界として求められることは明らかです。
過去にはマーケティングという概念に馴染みが薄かったとはいえ、これからはもう通じません。確実に、変革が求められます。

今ならまだライバルが少なく、先行者になれるメリットがある

マーケティング活動に本腰を入れて取り組めているBtoB製造業の企業がまだ少ないからこそ、今始めれば、競合他社に差をつけやすいのも大きなポイントです。

参考までに、製造業のマーケティング活動についての考え方・取り組みの現状が見えるデータをご紹介します。
経済産業省が発表している製造業についてのデータを収集・分析した『ものづくり白書』(2020年版)によると、IT投資の目的として「データの利活用による顧客行動や市場分析」をあげたメーカーの数はわずか1割程度。多くの製造業企業で、まだマーケティング活動に注力できていない現状が見えてきます。

IT投資の目的ーBtoB製造業のマーケティングはなぜ難しいのか?実践すべき施策を成功事例を交えて解説

引用元:2020年版ものづくり白書(ものづくり基盤技術振興基本法第8条に基づく年次報告)(外部リンク)

Webサイトの導線を改善してコンバージョンしやすくする、名刺交換を行った見込み客にステップメールを送ってフォローする、などのBtoBマーケティングが浸透した業界ではごく当たり前になった施策をきちんと行うだけでも、大きな効果が期待できる段階ですから、ぜひ早期に取り組みを始めたいところです。

後ほど事例でご紹介しますが、早い段階から本腰を入れてきちんとマーケティングに取り組んだBtoB製造業では、他とは頭一つ抜きん出た成果が得られています。
いずれ行わなければならないのですから、早期に取り組み、効果を最大化すべきでしょう。

「数」より「質」に注目を!対象者が少なくとも「刺さる人には刺さる」のがBtoB製造業のマーケティング

BtoB製造業の市場はニッチであり、マーケティングのターゲットとなる対象者が少ないとはいえ、「マーケティング活動のインパクトが小さい」わけではありません。具体例でご説明します。

オンラインでの広告出稿を想定してみましょう。検索されるキーワードに連動して表示させる「リスティング広告」や、オウンドメディアや企業ブログを運営して記事を投稿し検索結果の上位表示を目指す「コンテンツマーケティング」の施策では、狙うキーワードを決定する「キーワード選定」作業がスタート地点になります。

キーワード選定を行おうと、自社製品の名前が検索エンジンで検索された回数を調べてみたら、ほとんど検索されていなかったとします。
そこで、「こんなニッチなキーワードは誰も検索しないから、このキーワードでSEO対策をする意味がない」と判断するのは早計です。ニッチなキーワードで検索するのは、ピンポイントでその情報を探している人ですから、明確に業界関係者で、かつ、購買を検討している可能性も大です。検索結果でそのキーワードについてのページを目にすれば、クリックし、目を通してくれる可能性が非常に高いでしょう。

BtoB製造業は受注に至った際に動く金額が大きいので、単純に「集客できそうか」という観点だけで考えるべきではありません。月間数百万というアクセスがあれど毎月、1件の資料請求もないウェブサイトよりは、月間数十回しか閲覧されないけれど半年で1件、成約に至るウェブサイトのほうが売上につながります。
たとえ検索回数がほとんどないキーワードであれ、「一本釣り」の可能性を考えると、検索順位での上位表示を目指して、SEO対策をする価値は十分あると言えます。

BtoB製造業のイメージーBtoB製造業のマーケティングはなぜ難しいのか?実践すべき施策を成功事例を交えて解説

コンテンツを用意するまでに時間と労力はかかりますが、作りこんだコンテンツは資産となります。一部分だけを切り出して営業資料にしたり、自社で開催するセミナーのテキストにしたりと、その後も末長く活用できます。長い目でみれば、毎回、足で稼ぐしかない顧客訪問に比べるとはるかに効率的です。
確実にターゲットに届ければ大きな利益を狙えることを念頭に、「検索数」だけで判断せず、広い視点で考えてください。

BtoB製造業のマーケティング、何から始めればいい?

BtoB製造業でマーケティングをいざ実行するとなれば、どこからスタートすればいいのでしょうか。

BtoBマーケティングの全体像・流れを把握する

知識がほとんどない状態で、いきなり実際の施策を行うことが無謀なのはいうまでもありませんし、「施策ありき」のマーケティングでは成功できません。BtoBマーケティングの進め方には一定の型がありますから、まずはその全体を把握しましょう。

BtoBマーケティングでは、自社のサービス・商品に興味を持ち、購入してくれる可能性のある企業を「見込み客(リード)」と呼びます。リードを、受注までの検討プロセスごとに
・「リードジェネレーション(獲得・創出)」
・「リードナーチャリング(育成)」
・「リードクオリフィケーション(選別)」

の3つに分けます。

リードジェネレーションから受注までーBtoB製造業のマーケティングはなぜ難しいのか?実践すべき施策を成功事例を交えて解説
それぞれの段階に応じたアプローチをタイミングよく行い、最終的に購入確度の高くなったリードを営業部門に引き渡して案件化を目指す、というのがBtoBマーケティングの基本の流れです。
詳しい解説は、こちらの記事もご参照ください。

BtoB製造業で活用されているWebマーケティング施策を頭にいれる

次に、マーケティング手法について一通り知識をインプットします。マーケティング手法はオンライン・オフライン含めると多岐に渡りますが、力を入れたいのは、BtoBマーケティングで存在感を増しているWebマーケティング
一つ一つの施策を実行するにはより詳細な知識が求められますが、ここではBtoB製造業でも踏み出しやすいという視点からピックアップした施策について、概要だけご紹介します。

1、Web広告

Web上に有料で出稿する広告の総称がWeb広告です。BtoB製造業の場合は
・業界の関係者が訪問する専門サイトへの広告出稿
・検索結果に表示させる「リスティング広告」
・過去にWebサイトを訪問したことのあるユーザーに対して、再度、自社の広告を表示させる「リターゲティング広告」

などが有効です。

2、コンテンツマーケティング

自社で保有・運営するメディアや企業ブログで、顧客にとって有益な情報を発信していく活動です。特徴は、自社の伝えたいことをアピールして製品を売り込むのではなく、顧客が知りたいと思うことをコンテンツとしてまとめ、自社のファンを作ることです。

BtoB製造業では、
・製品の機能・製品を使ってできることを具体的に紹介する
・解決策の具体例を挙げる

といったコンテンツが作れるでしょう。

ウェブマーケティングに注力し出すと、それまでは一切、接点のなかった層に自社を見つけてもらえる可能性も出てきます。同じ既存顧客と長期にわたってやりとりを続ける傾向があるBtoB製造業ですから、「顧客のことはすでに十分理解しているし、顧客も自社のことをよくわかってくれているから、今更詳しく説明する必要もない」ケースがほとんどでした。
しかし、ウェブマーケティングを始めると事情は違ってきますから、初めての人にもわかりやすく説明するつもりで、自社の製品を理解してもらうためのコンテンツを用意します。

Webマーケティングに注力し始めるとーBtoB製造業のマーケティングはなぜ難しいのか?実践すべき施策を成功事例を交えて解説

自社のビジネスモデルの確認を

続いて、自社のビジネスモデルを確認します。
具体的には、
・製品の単価(高価格帯か、低価格帯か/低価格帯でもまとまった量で納品するため高価格帯になるのか)
・製品の性質(顧客ごとに製品をカスタマイズして販売するのか、一定規格の製品を販売するのか)
を確認しましょう。

マーケティング施策は膨大にありますから、順位をつけて、より重要なものに優先して取り組まねばなりません。新規顧客の獲得に注力すべきか、既存顧客に多くリピートしてもらい単価をあげたいのか、ビジネスモデルによって施策の優先順位が変わってきます。自社がとるべき戦略を設計するにはまず、この分析を丁寧に行ってください。

マーケティング体制の拡充は必須

成功のカギは、マーケティングを専門に行う部署・体制の整備です。BtoBマーケティングを成功に導くには、業務・業界に関する知識だけではなく、マーケティング分野の専門知識が求められますし、時間を割いて取り組まねばなりません。初心者、未経験、兼務といった実施状態では、期待ほどの成果を挙げられないのです。

さらに、マーケティングという概念・考え方を社内に浸透させ、営業をはじめとする他部署からの協力を仰ぐうえでも、チーム・組織としてのマーケティング部門の設置は必須です。

マーケティングに注力できるリソースを確保し、BtoBマーケティングに詳しい人材を採用するなど、初期の段階から組織をあげた体制の構築に取り組むことをおすすめします。

BtoB製造業のマーケティング戦略立案と施策実行のポイント

BtoBマーケティングの戦略立案では、綿密な現状分析と考察を行ったうえで具体的かつ適切な数値目標(KPI)を設定し、その目標をどのように達成するのか、道筋を考えます。詳しくはこちらの記事で解説しました。製造業の戦略立案も基本的に、同じプロセスで行っていきますが、特に意識したいポイントは以下です。

MAツールの導入を検討する

意思決定に時間がかかるBtoBマーケティングでは、商材が購入されるまでの検討期間は、数ヶ月〜年単位と、長時間に渡ります。その間、例えばテレアポやインサイドセールスのように、購入に向けて顧客の背中を押すためのナーチャリングが必要です。
顧客の検討がどの程度進んでいるかを推測し、検討のフェーズに合致したコミュニケーションを行わねばなりませんが、これを効率的に行えるのがMA(マーケティングオートメーション)ツールです。

MAツールは、
・見込み顧客の情報管理
・メール配信
・Webサイトへのアクセス分析
・広告キャンペーンの管理

といった煩雑で膨大な作業を自動化できるので、マーケティング活動の効率化に大きく役立ちます。

MAツールにできることーBtoB製造業のマーケティングはなぜ難しいのか?実践すべき施策を成功事例を交えて解説

BtoB製造業で、これからマーケティングを立ち上げるケースでは、少数精鋭のメンバーでのスタートも多いでしょうから、リソースを補うためにも導入を検討すると良いでしょう。月額で費用がかかる製品がほとんどですが、少ない機能でコストを抑えたスモールスタートが可能なMAツールもあります。詳しくは以下の記事もご参照ください。

関連記事 【BtoB企業のマーケティング】MAツールは導入すべき?機能比較&選び方から活用のポイントまで解説

表に出しにくい企業秘密は顧客視点からの「言い換え」ができないか検討する

ノウハウの流出に気を遣う製造業では、製品の強み・独自性の詳細な公開が難しい傾向にあるとご説明しました。これに対応するためには、視点を変えてみましょう。

製造側の立場としては、製品の規格・機能を明確に説明すべきだと考えますが、実は、顧客にとってそれらはさほど重要ではないかもしれません。むしろ、「その製品を採用するとどんな課題解決ができるのか」「使用時の具体的なメリットは何か」という部分こそが重要であり、製品の詳細な仕様や製造過程でのこだわりについては、そもそも説明を求められていないこともあります。

自分たちの伝えたいことを伝えるのではなく、顧客の知りたいことを伝えるスタンスで、顧客の視点から自社の製品を見つめ直してみましょう。

BtoB製造業のマーケティング成功事例<オウンドメディア>

BtoB製造業のマーケティング成功事例ですが、おすすめの手法で紹介した「オウンドメディア」を活用し、成功をおさめたBtoB製造業の企業の事例をご紹介します。

ハードロック工業株式会社はゆるみ止めねじの開発や製造・販売をおこなっている会社で、「ゆるまないナット」で知られる大阪府のメーカーです。
同社はエンジニア向けのオウンドメディア「ねじ締結技術ナビ」を2020年から運営しており、こちらの媒体では、ねじの緩みと締結にまつわる情報に特化して情報発信を行っています。掲載されている記事のタイトルの一部をご紹介すると、

「回転角(度)法(ボルトの締付け方法)」
「なじみ取りの効果(ナットの繰返し締付け試験)」
「ねじのゆるみはどうやって把握する?(軸方向繰返し荷重試験)」

このように、非常にニッチな読者層を対象としたメディアであり、広く一般の人からアクセスを集める性質のものではありません。一方で、情報を求めている企業にとっては確実に需要があるテーマであります。

これらの記事はねじに関わるエンジニアの皆さんにとって、日々の業務に直結した内容であるうえ、一つ一つが丁寧に制作された非常に有益なコンテンツになっています。テキストだけではなく独自の図解を入れて解説をしたり、自社で行った検証動画の公開をしたりと、他にはない、大変、価値の高い内容になっています。

やがて「ねじ締結技術ナビ」は、業界の人の間では非常に有名なメディアとなり、ハードロック工業株式会社は、新規リード獲得件数を20倍にまで増やすことに成功しました。

ねじ締結技術ナビ・オウンドメディア成功事例ーBtoB製造業のマーケティングはなぜ難しいのか?実践すべき施策を成功事例を交えて解説

画像引用元:ねじ締結技術ナビ(外部リンク)

BtoBマーケティングでは、商品の購入をする際にわざわざ検索をしない傾向があるからこそ、普段から購買担当者の間での認知度アップが重要です。そうすれば、発注先の検討段階で思い出してもらえ、選択肢の一つに入れます。
「第一想起をとりにいく」ために、オウンドメディアの試みは非常に効果的です。

BtoB製造業のマーケティングを成功させるためのポイント

最後に、BtoB製造業のマーケティングの成否を左右するポイントを2つ挙げます。

自社製品の分析・立ち位置の確認

マーケティング活動の出発点になる、現状分析と調査。なかでもしっかりと行いたい自社製品の分析ですが、大切なのは客観的な視点です。

「ものづくり」の業界に身を置いている人は製品の「品質」に真っ先に目がいきます。例えば、「自社の製品が選ばれているのは競合他社と比べて、こういった部分の品質が優れているからだ」と、まず品質に着目したくなるのです。もちろん、品質にこだわるのは製造業にとって本質であり、非常に重要な部分ですが、マーケティング視点で考えるべき要素はそれだけにとどまりません。

顧客側から見れば実は、品質以外の点がより大きな魅力となり購入に至っている可能性もあります。BtoB製造業の製品が購入されるまでには、複数の要素が絡み合っているため、強み・選ばれる理由は、簡単には見えてきません。顧客視点に立って考え、要素を1つずつ丁寧に分解して考えると良いでしょう。可能なら、実際のお客様にヒアリングさせてもらうのも非常に有効です。

実現可能なラインを考える

2023年現在、BtoB製造業ではマーケティング活動がまだ根付いていない状況ですから、他の業界のBtoBマーケティングでは当たり前になっている施策でも、実行が現実的ではない場合もあります。

例えば、FacebookやX(旧Twitter)などのSNSプラットフォームに企業アカウントを作り、リードの獲得・育成を行うSNSマーケティング。BtoC企業ではかなり一般的になりました。BtoB企業においても公式アカウントを運用するケースがありますが、BtoB製造業ではSNSマーケティングの成功事例をあまり見かけません。

もちろん、BtoB製造業がSNSマーケティングに取り組んではいけないわけではないのですが、もう少し身近なところから始めたほうが、社内的にも受け入れられやすく、実行のハードルも低いでしょう。
たとえば、展示会への出展はBtoB製造業にとって代表的なマーケティング活動ですから、最初はこれをウェブ上に移行した「オンライン展示会」を行うなど、実現可能な範囲を考慮して進めます。

BtoB製造業のマーケティングを成功に導くポイントーBtoB製造業のマーケティングはなぜ難しいのか?実践すべき施策を成功事例を交えて解説

BtoB製造業のマーケティングは「無理しすぎない範囲」からのスタートを

BtoB製造業のマーケティング活動を取り巻く課題を確認したうえで、それらを克服するためのヒントをご紹介しました。
商材の専門性が高く、業界特有の商習慣もあるBtoB製造業。それゆえ、外部の支援会社に頼ってもなかなか、良い提案がもらえず、マーケティング活動を本格的に始めようとした際にぶつかる壁が高いのです。

裏を返せば、BtoB製造業の領域においては、自社で行うマーケティング活動のメリットが非常に大きいということ。マーケティング知識を身につけ、部門を立ち上げての取り組みができれば、ビジネスを飛躍的に成長させる可能性も秘めています。

ただし、無理は禁物。BtoB製造業でこれまで売上の要となってきたのは、営業です。そこにいきなり「本格的なマーケティング活動を!」と意気込んでは、反発を招き、失敗につながりかねません。業界特有の事情を理解したうえで、まずは現場の営業担当者のやり方に寄り添う形でマーケティング活動を導入するなど、無理をせずゆっくりと慣らしていくつもりで取り組みましょう。今回ご紹介した内容を、BtoBマーケティングを始めるヒントにしていただければと思います。