カスタマージャーニーマップを作成する6つの手順と活用事例を解説
マーケティングツールとして活用されているカスタマージャーニーマップ。実際の作成方法や手順を、詳しく知りたい方は多いのではないでしょうか。この記事では、カスタマージャーニーマップを作成するメリットや具体的な作成方法、そして作成事例をまとめて解説します。
本記事で解説しているポイントを押さえておけば、 カスタマージャーニーマップの作成方法が把握できマーケティングに活用できるようになるはずです。適切なカスタマージャーニーマップを作成するためにも、ぜひ参考にしてみてください。
カスタマージャーニーとは
カスタマージャーニー(customer journey)とは、顧客が商品やサービスを購入するまでのプロセスを示すフレームワークです。
カスタマージャーニーを直訳すると「顧客の旅」になります。商品やサービスを知り興味を持ち、実際に購入し、サービスの解約や商品の廃棄をするまでの流れを「旅」に例えているところが特徴です。
顧客が商品やサービスを購入するプロセスを時系列に並べ、それぞれの過程での行動や心理の変化を可視化することでマーケティングやビジネスに活用できます。
なぜカスタマージャーニーマップが必要なのか
マーケティング時に、カスタマージャーニーマップをわざわざ作成する必要はあるのか気になっている人も多いかと思います。カスタマージャーニーマップが必要とされる主な理由は、2つあります。
1つ目は、市場が成熟化し商品やサービスの差別化が難しくなったことです。成熟した市場では価格や機能、性能が似た商品が溢れ、商品やサービス自体を比較し取捨選択しにくくなっています。そこで重要なのが顧客との接点を意識し、関係性を構築することです。
カスタマージャーニーマップを作成すると顧客との関わり方が見出しやすくなり、時代に沿った戦略を立てられます。
例えば、2020年、2021年、2022年と近年企業にとって切り離せない概念となった「withコロナ」における顧客行動なども、時代に沿った戦略に関わってくるでしょう。
2つ目は、顧客のタッチポイントが増加していることです。SNSやインターネットの普及により、顧客が情報を収集する経路が増えました。その分、ターゲットに的確な情報を伝えることが難しくなってきています。
カスタマージャーニーマップを作成すれば顧客の行動や心情を把握したうえで、どのように情報を伝達するべきか具体的に検討できます。
カスタマージャーニーマップを作成する4つのメリット
カスタマージャーニーマップを作成する必要性が把握できたところで、カスタマージャーニーマップを作成するメリットを4つご紹介します。
顧客体験価値の向上に役立つ
顧客体験とは、顧客が商品やサービスを認知し購入、アフターサービスを受けるまでの全ての体験を指します。
昨今は市場の成熟化と顧客の価値観の多様化により、顧客体験価値が重要視されています。商品やサービスを購入する体験そのものに価値を付けて、顧客満足度向上を目指すのです。
カスタマージャーニーマップを作成し顧客の行動や思考をまとめると、顧客目線での課題や欲求が見えてきます。それを網羅する施策を導入することで、顧客体験価値の向上に活用できます。
ロイヤルカスタマーの育成につながる
カスタマージャーニーマップを作成すると顧客の行動や心情が細かく分かるため、ロイヤルカスタマーとなり得る顧客像が明確になります。
それだけでなく、顧客が商品やサービスに興味を持つきっかけやファン化するポイントが把握できます。
顧客にどのタイミングでアプローチをすれば親近感や愛着心を覚えるのか分析できるため、ロイヤルカスタマーの育成にも活用できるでしょう。
社内で共通認識が持てる
カスタマージャーニーマップがないと、個人や部署で異なるペルソナを思い浮かべてしまうことがあります。
とくに顧客の心情は可視化できないため、個人の考え方や思いに委ねる部分があるでしょう。しかし、それでは同じ方向を向いての施策ができないため 、足並みが揃わない可能性があります。
カスタマージャーニーマップを1枚の資料として社内で共有するだけで、同じ顧客層を想定し仕事に取り組めます。
優先すべき課題が見つけられる
カスタマージャーニーマップがないと各プロセスやプロセス内での課題比較がしにくく、目についた課題から取り組むことになります。
カスタマージャーニーマップがあれば、今まで見えていなかった課題が理解できます。それだけでなく、各プロセスで浮かびあがった課題を比較し、優先順位をつけることが可能です。
例えば、購入前のプロセスと購入後のプロセスに課題があった場合に、優先順位をつけて商品購入やサービス利用に直結する部分から改善できます。最優先すべき課題から改善ができるため、効率よく効果を得ることができるでしょう。
カスタマージャーニーマップを作成するデメリット
カスタマージャーニーマップを作成するメリットが把握できたところで、気になるのがデメリットです。
ここでは、カスタマージャーニーマップを作成するデメリットをご紹介します。カスタマージャーニーマップに関する知識を深めるためにも、ぜひ参考にしてみてください。
マップ作成に時間と労力がかかる
カスタマージャーニーマップの作成には、時間と労力がかかります。ペルソナの設定や行動、心情分析など複数人で情報収集や分析をしながら取り組むべき項目が多いです。
あらかじめ時間や労力がかかることを想定し、カスタマージャーニーマップに取り組む時間を確保しながら進めることが大切です。
ネガティブなケースを想定できない
商品やサービスを認知した顧客全員が、購入や利用に至るわけではありません。
カスタマージャーニーマップは「商品の購入に至らなかった」「商品の検討段階で離脱した」など、顧客のネガティブな行動に対する分析や想定ができません。
あくまでも購入を前提として時系列に沿った行動や心情をまとめるので、拒否反応を示す顧客を視野に入れることが難しいです。どうしても企業側が顧客にして欲しい行動がベースとなってしまうのは、デメリットだと言えるでしょう。
カスタマージャーニーマップを作るための準備
ここでは、実際にカスタマージャーニーマップを作成するときの準備をご紹介します。
目的とゴールを明確にする
まずは、なぜカスタマージャーニーマップを作成するのか目的とゴールを設定します。フレームワークを作成するときに目的とゴールが設定できていないと、具体的な内容やペルソナ設定がぶれてしまいます。
例えば、スキンケアブランドでは、以下のように目的とゴールを設定したとします。
目的 |
20代女性の顧客が少なく、新規顧客を獲得したい |
ゴール |
新規顧客獲得の課題を見つけて施策を考える |
具体的な目的とゴールを設定すると、ペルソナ設定やカスタマージャーニーマップ作成後の取り組みが分かりやすくなります。
ペルソナを設定する
カスタマージャーニーマップは、ペルソナ設定が非常に重要です。ここで設定したペルソナがどのような行動、心情であるのかを分析、情報収集していくからです。
ペルソナを設定するときは、下記のような項目を参考にできるだけ具体的な人物像を思い描いてください。
- ・年齢
- ・職業
- ・家族構成
- ・年収
- ・趣味
- ・価値観(普段の生活の様子や重要視していること)
- ・好きなもの
カスタマージャーニーの目的と照らし合わせながら、自社の商品やサービスにフィットするペルソナを設定してみましょう。
関連記事「カスタマージャーニーマップに欠かせないペルソナの作成方法」
カスタマージャーニーマップを作成する6つの手順
ここでは、下記のカスタマージャーニーマップを参考に作成のステップをご紹介します。
カスタマージャーニーマップの作り方が把握できるようになるので、参考にしてみてください。
縦軸の項目を設定する
カスタマージャーニーマップの縦軸は、顧客の行動や思考を設定します。
設定するべき項目は商品やサービス、目的により異なりますが、基本的には下記の項目を取り入れます。
項目 |
概要 |
具体的な記載内容 |
行動 |
顧客が実際に起こす行動を記載 |
SNSの口コミを見る ショップに行き商品を手に取る |
タッチポイント |
顧客との接点になる場所やツール |
ショップ SNS |
思考 |
ある行動を取ったときに顧客が考えること |
自分に似合う? 何円だろう? |
感情 |
ある行動を取ったときに顧客が思うこと |
この商品が欲しい! 思ったよりも高級感がある |
課題 |
ある行動を取ったときに顧客が不満や不安を抱くであろう課題 |
流行に合っていないかもしれない 長く使用できなさそう |
縦軸を見ると、プロセスごとの顧客の心情や行動が一目で把握できます。
横軸の項目を設定する
カスタマージャーニーマップの横軸は、顧客がサービスや商品を購入するまでにたどるプロセスを時系列で記載します。
横軸も商品やサービスにより異なりますが、下記のようにプロセスやタッチポイントが切り替わるタイミングで区切るのが一般的です。
項目 |
概要 |
認知・興味 |
商品やサービスの存在を知り認知をするプロセス |
検討・情報収集 |
商品やサービスの購入を検討し情報を集めるプロセス |
試着・来店 |
商品やサービスを購入するべきか最終判断をするプロセス |
購入・利用 |
商品やサービスを購入するプロセス |
商品やサービスを認知するところから始まり、利用や購入するまでの過程を時系列で区分けします。
アフターサービスなどの支援 やリピーター獲得を重視している際は、購入・利用後に「リピート」「アフターサービス」などの項目を設けてもいいでしょう。また、AIDMAやAISASなどの購買行動モデルを活用する場合もあります。
ペルソナの行動を整理する
カスタマージャーニーマップの大枠が完成したところで、設定したペルソナが各プロセスで、どのような行動を取るのか整理していきます。
ペルソナがどのような行動を取るのか、できる限り具体的に記載することがポイントです。例えば「認知・興味」のプロセスでは「SNSを見ていたらインフルエンサーが使用しており気になり検索をした」など、興味を持つきっかけを明確にします。
ペルソナの感情を整理する
ペルソナの行動が明確になったら、その行動をする際にどのような感情や思考を抱くのか整理します。
例えば、「認知・興味」のプロセスで「SNSを見ていたらインフルエンサーが使用しており気になり検索をした」という行動を起こした場合、この行動に付随する思考と感情をイメージします。
認知・興味 |
|
行動 |
SNSを見ていたらインフルエンサーが使用しており気になり検索をした |
思考 |
自分にも似合うだろうか? |
感情 |
かわいいなあ! 私も欲しいなあ |
思考や感情をイメージするときのポイントは、ペルソナの目線になることです。企業側の思考ではなく、あくまでもペルソナの立場に立って考えてみてください。
顧客の情報を収集する
ここまで記入してきたペルソナの行動や心情は、イメージの範囲内の話です。カスタマージャーニーマップの精度を高めるためには、顧客のリアルな声が欠かせません。
そこで、ペルソナに近い顧客へのインタビューやアンケート調査を実施し、顧客の行動や心情を調査しましょう。
顧客へのインタビューやアンケートが難しい場合は、下記のデータがヒントになるかもしれません。
- ・商品やサービス購入時、購入後のレビュー
- ・営業担当者やショップ販売員へのヒアリング
- ・ホームページやSNSの閲覧履歴
できる限り顧客の本音を収集しカスタマージャーニーマップに取り入れることで、現状を反映させることが可能です。
マッピングをする
最後に収集した情報とイメージのみで記載した仮説を照らし合わせ、ズレがないかを確認します。
すべてのマッピングが終了したら、プロセスごとの行動から思考までをもう一度分析していきます。その中で課題が見つかったら「課題」の部分に記載をします。
課題は、ペルソナとなる顧客が不安や不満を抱えることが前提です。ペルソナの立場になり、不安や不満を感じると思ったら課題に記入をしていきましょう。
ここまで完了すると、カスタマージャーニーマップの完成です。今回ご紹介した手順や項目はあくまでも無料で作成する手順の一例となるので、商品やサービス、ペルソナに合わせて適宜変更しながら作成してみてください。
関連記事「企業別・目的別のカスタマージャーニーマップ・テンプレート」
カスタマージャーニーマップの2つの事例
ここでは、カスタマージャーニーマップを使用した2つの事例をご紹介します。カスタマージャーニーマップを業務に活用するコツが把握できるので、参考にしてみてください。
就職活動から入社までのマップ事例
「株式会社ロフトワーク」 では、新卒採用をするWeb サイトのリニューアルに携わっていました。このWebサイトの目的は新規事業を担う人材を獲得することです。
この目的を達成するために、就活の選考前から内定までのカスタマージャーニーマップを作成しました。ペルソナと合致する学生5人を招きリアルな声を聞きながら、ワークショップ形式で取り組んだとのこと。
カスタマージャーニーマップを作成したことで、すべてのプロセスにおいて就活生が企業に関する充分な情報収集ができていないと感じていることが明確になりました。この結果をもとにWebサイトリニューアルの要件を再考でき、就活生のニーズに寄り添うコンテンツへと変身を遂げたそうです。
カスタマージャーニーマップの活用により新たな課題を見つけ、業種へと有効活用できた事例だと言えるでしょう。
※参考:Web担当者Forum「2時間で作るカスタマージャーニーマップ――実例とともに考える新しい「おもてなし」のカタチ」
https://webtan.impress.co.jp/e/2013/11/27/16409?_fsi=OlwmXDaQ
中部国際空港セントレアのマップ事例
株式会社のれんではユーザーの行動全体を把握しユーザーの思考やニーズを可視化するために、カスタマージャーニーマップを制作しているようです。
最高のおもてなしができる中部国際空港セントレアの公式サイトを目的として、カスタマージャーニーマップを作成。空港の顧客にインタビューをして分析をしました。
その結果、課題が明確になり、情報掲載が最優先されていたサイトから脱却できたそうです。カスタマージャーニーマップを活用し、課題を見つけ有効な対策ができた事例だと言えます。
※参考:株式会社アシスト「~H.I.S.に学ぶ、企業が考えるべき顧客視点のWeb戦略とは?~(ロフトワーク共催)」
https://noren.ashisuto.co.jp/seminar/report/1187443_1574.html
カスタマージャーニーマップ作成を失敗しないための心構え
カスタマージャーニーマップ作成を失敗で終わらせないためには、どのようなことに注意をする必要があるのでしょうか?
ここでは、カスタマージャーニーマップ作成時の心構えを解説していきます。心構えを忘れないことで効果的なマップ作成ができるので、ぜひチェックしてみましょう。
企業の理想ではなくペルソナ目線を意識する
カスタマージャーニーマップを作成するときに、ついつい企業の願望や理想を基に行動や心情を記載してしまうことがあります。
これではペルソナのリアルな現状を反映できず、本当の課題が見えてきません。カスタマージャーニーマップを作成するときにはペルソナの目線を意識をして「ペルソナだったらどのような行動をするのか」「ペルソナならどのように思うのか」という気持ちで考えてみてください。
調査方法が偏らないようにする
顧客のリアルな声を拾う調査方法が偏っていると、現状と乖離したカスタマージャーニーマップに仕上がります。
例えば、数人の顧客の声のみを参考にする、ペルソナから外れたターゲット層のアンケート結果を参考にするなどが当てはまります。
ペルソナに合う顧客の調査は時間と労力がかかりますが、できるだけ多くの調査を行うと現状に合うリアルな声を参考にしながらカスタマージャーニーマップを作成できるでしょう。
多くの意見を取り入れる
カスタマージャーニーマップは、できるだけ多くの意見を取り入れて作成することが大切です。1人や少人数で作成すると偏った考え方をしてしまう可能性があります。
偏った行動や心情のみを反映すると網羅性に欠けるので、精度の低いカスタマージャーニーマップに仕上がってしまうでしょう。
部署や年齢問わずチーム で相談し多くの意見を取り入れることが、失敗を回避することにつながります。
関連記事「カスタマージャーニーとは? ペルソナとの違いやマップ作成方法を解説」
カスタマージャーニーマップを有効活用する3つのポイント
最後に、カスタマージャーニーマップを有効活用するポイントをご紹介します。カスタマージャーニーマップは一度作成したら終わりではありません。長期に渡りマーケティングで活用するためにも、ちょっとしたコツを押さえておきましょう。
PDCAサイクルに活用し課題の解決を図る
カスタマージャーニーマップを作成したところで、満足してはいけません。PDCAサイクルを回して、初めに設定したゴールを達成できるようにしましょう。
具体的には、カスタマージャーニーマップを作成したときに明確化した課題に取り組み、現状を改善していきます。
現状が改善したところで再度カスタマージャーニーマップを作成して、ペルソナとなる顧客にどのような変化があったのか比較します。PDCAサイクルを回すことで、カスタマージャーニーマップを活用し効率よく現状を改善していけるでしょう。
社内に周知をして共通認識にする
せっかくカスタマージャーニーマップを作成しても、業務に活用していなければ意味がありません。カスタマージャーニーマップが完成したら周知を徹底し、社内やチームで理解するようにしましょう。
同じ指標を持つことで社内一丸となり、課題に取り組みやすくなります。また、施策に迷ったときにもカスタマージャーニーマップを見ることで、的を得たアイディアが浮かびやすくなります。
定期的にアップデートする
カスタマージャーニーマップは、一度作成したら終わりではありません。顧客のニーズや市場は常に変化するため、定期的なアップデートが欠かせません。
PDCAサイクルに合わせてカスタマージャーニーマップをアップデートする時期を決めて、継続的に更新をしましょう。
カスタマージャーニーマップを作成しマーケティングに活用する
カスタマージャーニーを有効活用するには、サービスや商品ごとにカスタマージャーニーマップを作成することが欠かせません。
明確なペルソナを設定し顧客目線で行動や心情を分析することで、精度の高いカスタマージャーニーマップが完成するでしょう。
カスタマージャーニーマップをマーケティングに活用するためにも、今回ご紹介した作成手順やコツを取り入れてみてください。